モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集 VOL.1 庄司紗矢香、ジャンルカ・カシオーリ(通常盤)
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村井 翔 | 愛知県 | 不明 | 2023年03月01日
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタからベスト3を選ぶとしたら、多くの人がこの3曲を選ぶだろう。そんな超名曲を3曲とも「VOL.1」に集めてしまって「VOL.2」以降の選曲は大丈夫だろうかと心配になるほどの名曲揃いアルバム。もちろんこれを誉めるのは曲目が良いだけではなく、演奏自体が飛び抜けて素晴らしいからだ。ファウスト/メルニコフ、イブラギモヴァ/ティベルギアンといった大御所の録音と比べても何の遜色もないばかりか、一段と「とがった」演奏と言って良い。たとえばホ短調K.304の第1楽章。「ほのかな哀しみをたたえた」ようなトーンで奏でられることが多いこの楽章だが、この演奏は冒頭から緩急の起伏が大きく、かつて聴いたことがないほどの劇的な様相を見せる。加えて、ヴァイオリン・ソナタではこれまで聴かれなかったほどの装飾、変奏がリピートに際して加えられる。小カデンツァと言ってよいほどの挿入句もある。ピアノ・ソナタでも近年、好んで行われるスタイルだが、そのためこの演奏は「スムーズに流れる」ことよりも「バロック的に微視的なアーティキュレーションの起伏をつける」ことを重視している。激烈なト長調K.379の第1楽章(主部はト短調)など、このスタイルにぴったり。緊密な二重奏ソナタであり、フォルテピアノとヴァイオリンがついに対等になるイ長調K.526も目覚ましい出来ばえ。フォルテピアノを弾きこなすピアニストも珍しくなくなってきたし、ガット弦・バロック弓の楽器も扱うヴァイオリニストだっていないわけではないが、庄司/カシオーリ、この二人の研究、実践の成果には大拍手を送りたい。コロナ禍で通常の演奏活動ができなくなったことが、二人には幸いしたようだ。3人の方が、このレビューに「共感」しています。
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